短編

おかしい


私って今思い返せばかなり捻くれているんじゃないかと思う。


「クリスマスだよ!」
「今日はこの幼稚園にサンタさんが来てくれました!」
阿呆か、よく見りゃ隣の小学校のハゲ校長だろうが。

「これ貰うし。」
「ちょっとお、返してよ。」
返してほしいんだったら力ずくで取ればいいじゃないか。

「着替え覗いたでしょ!」
「そっちがだろ!女のくせに!」
見られて損も得もないじゃない。

「あなただってされたら嫌なことでしょ!?」
「自分がされて嫌なことはやっちゃいけないの!」
自分がされてもどうも思わないからやったんだけどな。

「今やっている道徳の授業について、実際の経験者の方がお話してくれます。」
「話を聞いてどうでしたか?」
…何がだろう。



みんながやっていることに疑問ばかり感じて、いつしかその疑問を問う私がおかしいのか周りの奴等がおかしいのかわからなくなっていた。
だけど毎回、私が投げかける疑問はみんなからすると「空気がよめていない」らしい。
それ自体、私にとってはよくわからないのだけれど、なんとなく苛々したからそれ以上は聞かなかった。
だから私は黙ればいいのだと、思い込むことにした。
質問してもわからないものはわからないし、世の中はそんな馬鹿みたいなことばかりで回っているということに気づいたから。
ふと、周りを見渡せば私だけが空中に浮いているような感覚に何度も陥る。
ぎゃあぎゃあと五月蝿い女子も、全く面白くないことで笑っている男子も、可笑しなことは何もない。
嗚呼、私が可笑しいのだと、最近やっと思えた。



私がお母さんに「行ってきます。」と言ったのは確か二時間前。
制服にスクールバッグ、ハイソックスにスニーカー。
いつもと同じでいつもと変わらない。
変わっているのは私が学校と逆方向へ歩いているということ。
スクールバッグにお金が入っているということ。
何処へ行くかなんて決まっていなかった。
誰もいない場所がいい。

だからずっと歩いて、ずっとずっと歩いて、何処かわからない場所に私はいた。
深そうな川が目の前にあって、たぶんあと三歩程進めば私は沼みたいな川の底で死ぬだろう。
死ぬのは、嫌だった。
痛いのも苦しむのも嫌だった。それは今も一緒。
できれば私は消えてしまいたかったけれど、そんなことは無理。
そういえば小学校の先生が「物質が″消える″ということは永遠にない」と説いていたのを思い出す。
消えることが無理なら仕方ないかなあ、と思った。
私はいつしか自分の中で勝手に結論を出す癖が出来ていたらしい。
自分が可笑しくて、笑えてくる。
自分というモノが可笑しくて笑いが止まらなかった。

普通って、どういうことなんだろう。

私にとってみんなが「可笑しい」の対象であって、
みんなにとって私が「可笑しい」の対象であった。

何かの漫画で言っていた。世界に可笑しいと判断されたものは排除するべきだと。
私の瞳に映るみんなが私の世界だ。
そのみんなが、私を、可笑しいと言ったから。世界が可笑しいと笑うから。
どうしようもないことなんだと思う。

私が排除されることで、私の中の世界も排除される。
可笑しなことはなにもない。

私が空中に浮いているような感覚が、した。



2009'06'14
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