辺り一面死体だらけだった。
まさに死体の海と呼ぶに相応しいその光景の中、私はただ一人立っていた。
見渡す限りの死体、死体、死体。
乳児もいれば、今の私と変わらないような年齢の人もいる。
果てのない白に海のような死体。
皆、胸から血を流し、そこだけくり抜かれたようにぽっかりと心臓の部分が開いていた。
私は何故、自分がこんなところにいるのかわからなかった。
どうして私はこんな場所に立っている?
出口は何処だ。何かないのか。
少しでも足を踏み出そうものならば、死体のどれかを踏んでしまいそうで動こうにも動けない。
進むことも戻ることも、声を出すことも出来ずに、どうすればいいのかわからないまま突っ立っていることしかできなかった。
そもそも、どこが後ろでどこが前かさえわからないのだ。
あまりにも感触のないこの世界は、色があってないようなものだった。
誰か、誰かいないのか。
私以外に誰かいないのか。
しかしそこにいるのは私だけだった。
いつの間にか目の前に私がいた。
はっと息をのむ。思わず胸に手をあてる。
目の前の私は無表情に私を見つめ、まるで蔑むかのような視線を向けていた。
そして私が口を開き、声を出そうとして、私が私を掴もうとして。
ぬるり。
胸にあてていた手にまとわりつく濡れた感覚。
目線を落とせば、自分の胸から血が溢れ出ていた。
あれ、しんでる?
目の前の私を見る。
私は私を見下して、口を開いて、ほら、
「ころした」
そしてみっともなく私は倒れた。
よくよく見れば、死体はすべて私だった。
2011'04'17