少年が泣きながら電車に乗ると、真っ黒なローブを被った旅人と席が隣になった。
しわがれた声の旅人は恐らく老人だろう。
決して顔をローブから覗かせようとしない老人は泣く少年に語りかけた。
くだらなくて、つまらなくて、優しい話を。
電車はいつまでも停車することはなかった。
車内アナウンスも流れることはなかった。
ただゆっくりと流れる景色を見つめ老人と少年は揺られる。
「君が飲んだ薬は、このままだと本当に効果を発揮して、君は死んでしまうだろうね。」
ローブの下から見えた老人の口。
優しく微笑んでいた。
涙の跡がまだ消えていない少年は、瞬きせず老人を見つめる。
外の景色はいつのまにか暗くなっていて、まるで黒いローブを被った老人が溶けていくみたいだった。
やがて少年は睡魔に襲われる。
ゆらゆらと身体が揺れる。脳が危険信号を発する。
いつのまにか横にいたはずだった老人は消え、そこには黒い影があるだけだ。いつのまにか電車も減速している。
確かにそこにいた筈の人たちが消えて、なくなっていく様を、少年は見つめてきた。
脳が叫ぶ。起きていなさい考えなさいと。
しかし睡魔は少年を包み込み、止まることのなかった電車が止まった。