短編

無題04


少年が駅へ向かうと、オレンジ色のマフラーをお揃いで巻いた一組の夫婦がいた。
夫婦は幸せそうに目を細め、少年に話しかける。
楽しそうに話しかけてくる夫婦を見ながら、少年も微笑んだ。
凍えそうな冬の寒さも忘れて夫婦と少年は駅で話していた。
もっとも、話していたのは夫婦二人だけだったのだけれど。
少年は見つめるだけだった。でも見つめるだけでも楽しいと思える気がした。
夫婦は時折寂しそうな瞳を少年へと向け、笑う。
どうしてそんな表情をするのか少年は考えたけれど、わからない。
ずっと、ずっとずっとそんなことを繰り返して、少年と夫婦は長い時を過ごしていた。
そして、寂しそうな瞳を向けた夫婦のうちの一人は、突然消えた。
少年と、残された男性のほうはそこにいた筈の女性を探す。
いるはずないとわかりながら、それでも探す。
やがて男性は女性が落としたマフラーを拾い上げ、少年の首にそっと巻き、駅の奥へと去っていった。
少年はしゃくりをあげて泣き続けた。



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