少年が商店街へ向かうと、白いタキシードを着た仮面の男にぶつかった。
見上げると、男は微笑んでいる。
全身が白くて眩しくて、おまけに長身の男は丁寧に腰を曲げると一言少年に挨拶をした。
「歌をお聞かせしましょう。」
男は美しいテノールで少年に歌を歌う。
周りのガヤガヤとした騒音など、男と少年にはまるで無音となっていた。
たった三分弱の短い歌が終わり、男はもう一度腰を折る。
少年も腰を折る。
歌が頭に響いて離れない。
少年が口を開いてお返しに歌を口ずさむ。
そして、男が見えない何かに飲み込まれて消えた。
少年は目を閉じてそこに立ち尽くしていた。